がんに負けないための栄養療法 ~Medical Information~

がん治療における栄養管理の重要性

かつては「不治の病」と呼ばれていたがんも、近年治療が著しく進歩した結果、うまく共存しながら長く「生活の質」を保った暮らしができる病気に変わってきました。治療の中心は、手術、薬物による化学療法と放射線治療の3本柱ですが、これらを土台から支えるものとして栄養管理の重要性がここ数年注目されています。栄養を適切に管理してがんに負けないからだづくりをすることで、治療にしっかり取り組むことができ、良い結果をもたらすことが証明されつつあります。

がんと体重減少

一般的に、がん患者さんはやせやすいとされています。その要因は大きく2つに分けられます。一つは「がん関連体重減少(cancer-associated weight loss: 以下、CAWL)」で、もう一つは「がん誘発性体重減少(cancer-induced weight loss: 以下、CIWL)」です。CAWL は消化管の狭窄や閉塞、治療による食欲不振や告知に伴う摂食不良などを原因とし、CIWL はがん細胞から放出される物質(サイトカイン)などによる代謝異常が原因とされます。CAWL に対しては、エネルギーやたんぱく質を摂取できるように様々な工夫をすることで体重の維持や増加が期待できる一方、CIWL は体内に慢性の炎症(火事のようなもの)が起こっている状況ですので、通常の栄養管理では簡単には火消しができません。したがって、体重減少に対しては、これらの原因を見極めて適切に対応することが必要です。
体重が減少すると多くのがんにおいて生存期間が短くなります。手術前の栄養状態が悪いと術後に肺炎などの合併症が増えると言われています。さらに、手術後早期に体重が大きく減ると、術後の抗がん剤による化学療法を長く続けることができないことも示されています。化学療法の進歩は目覚ましく大変有望な治療法ですが、その恩恵を十分に受けるためには、体重を減らさないようにすることが大切です。

がんとサルコペニア

InBodyを使った筋肉量の測定
サルコペニアとは、加齢や疾患により筋肉量が減少する病態のことです。最近いろいろなところで話題になっていますのでご存じの方も多いかもしれません。がん患者さんは、サルコペニアに陥る可能性が高く、がんの治療にとって大変不都合であることが最近の研究でわかってきました。サルコペニアがあると、術後の合併症や再発が多くなること、化学療法の副作用の発現が増え、治療の継続性や予後にも影響することが報告されています。これらの結果は体重減少の有無とは関係ありません。つまり、体重を落とさないだけでなく、筋肉を減らさないことも重要と言えます。筋肉量の推定は、歩行速度や握力の測定によって行われますが、当院では体に微弱な電流を流し電気の流れやすさで筋肉量を測定する体組成分析装置(InBody S10®)を積極的に活用しています。

がんと栄養療法

「栄養を摂ればがんが成長する」と聞かれたことはありませんか?残念ながら、それを信じ、なるだけ栄養を摂らないようにした結果やせてしまっている方を見かけます。食事でがんが大きくなることはまずありません。むしろ、体重や筋肉量を落とさないように、栄養バランスに注意しながら、高たんぱく、高カロリーの食事を心がけることが大切です。なかでも、たんぱく質を構成する分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、筋肉が分解されるのを抑えると同時に、筋肉の合成をうながす働きを持つため積極的に摂りたい栄養素です。BCAA は、まぐろやかつお、鶏肉、豚肉、牛肉などに多く含まれていますが、経口栄養剤を利用する方法もあります。経口栄養剤にはエイコサペンタエン酸(EPA)を多く含むものもあり、体内の慢性の炎症(火事)を抑える作用が期待できます。治療の影響で食欲がない時や、口内炎などでうまく食べることができない場合にも経口栄養剤が助けになることがあります。

栄養サポートチーム(NST)
昨年、当院の外来で化学療法を受けている患者さん121 名を対象に栄養に関する聞き取り調査を行いました。その結果、およそ3割の方がやせや体重減少などの低栄養の危険性を有していました。問題は、その中の多くの方が栄養管理の重要性に関する認識が低いことでした。体重を定期的に測定している方も少数でした。また食事の摂取エネルギーが不足し、たんぱく質が少ない傾向もみられました。この結果を踏まえ、現在当院では入院で化学療法を受けられるすべての患者さんを対象に、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士などの専門職で構成された栄養サポートチーム(NST)が病室に訪問し、栄養に関して生じている問題を確認し、患者さん一人ひとりにとって最適な栄養療法を考えるチーム医療を行っています。

摂食栄養サポート室

摂食栄養サポート室
外来棟2階には、「摂食栄養サポート室」が設置されています。専従の看護師が常駐し、InBody を使った筋肉量の測定、経口栄養剤の展示・紹介、管理栄養士による栄養指導や専門の医師による外来診療を行っています(図3)。食べられない、やせてきたなど栄養状態が心配な患者さんやご家族は、お気軽に栄養サポートチームの介入をご依頼ください。がんに負けないための栄養療法を一緒に考えていきましょう。

きなざっせ第86号より転載 摂食栄養サポート室 室長 竹迫 仁則