エコーの有用性

動脈硬化を診る ~エコー(超音波)検査の有用性~

全身の血管と主要臓器を評価するエコースクリーニング外来

現在の循環器診療では、脳心腎、大動脈、末梢血管の同時診察による全身の動脈硬化病変の早期発見やスクリーニングがルーチンに行われているとはいえず、また診療科間の連携が必ずしも十分に図られていないなどの問題もあります。そのため、狭心症に対し冠動脈インターベンション(PCI)を施行したが腹部大動脈瘤を見逃していた、冠動脈や下肢動脈は治療したが頸動脈狭窄症を見逃していたといったことがしばしば起こります。そこで、私たちは心臓と全身の血管を評価する目的で、心臓血管外来(エコースクリーニング外来)を開設しました。
血管の画像診断法には、X線血管造影や造影CT、MRA、エコーなどがあります。これらのうち、X線血管造影や造影CTには放射線被曝リスクがあり、造影剤腎症や造影剤アレルギーを有する患者では使用できません。また、MRAは体内金属やペースメーカーを留置している患者の大半が禁忌です。一方、エコーは非侵襲的かつ低コストで、外来でも簡便に行うことができます。さらに、エコーはCTと異なり狭窄部位や狭窄後の血流評価が可能であり可動性プラークや解離部位の詳細な情報も得られます。こうしたことから、エコーは全身の血管を評価する上で有用であり第二の聡診器ともいえるでしょう。
当院の心臓血管外来では、リスクファクターを有する患者の心血管合併症および術前の心血管の状態をチェックするために、スクリーニングエコーを駆使し、頸部から下肢までの血管と主要臓器を評価しています。具体的には動脈硬化のリスクファクターを有する患者では、頸動脈、心臓、大動脈腹部内臓動脈(腹腔動脈、上腸間膜動脈、腎動脈)、腸骨動脈のエコーチェックを必ず行います。下肢動脈は触診・聴診(服部から大腿部まで)および足関節・上腕血圧比(ABI)でチェックし、異常があればエコーで下肢動脈を精査します。足の痺れや間欠性跛行などの下肢閉塞性動脈硬化症が疑われる思者では、下肢動脈だけでなく、心エコー施行後に頸動脈、腎動脈など全身の血管をチェックし、可能であれば運動負荷試験による心筋虚血の評価を行います。難治性高血圧の患者では、二次性高血圧の鑑別(副腎腫瘍および腎動脈狭窄の有無)も行います。
エコーによる頸動脈から腹部内臓動脈までの血管の評価に要する時間は15分程度です。エコーと同時に問診や身体診察を行い、モニターで画像を見てもらいながらリアルタイムに説明することができるため、患者の理解が得やすく、信頼関係を構築しやすいといった利点もあります。

心エコー、胸部大動脈エコー

当外来のスクリーニングエコーでは通常心臓、胸部大動脈、腹部大動脈、頸動脈の順に行いますが、患者の主たる病状によって順番を変更することもあります。
心臓の検査がメインではない場合は、心エコーで収縮能、心筋肥大の有無、弁膜症の有無、肺高血圧の有無、下大静脈をチェックします。
続いて、セクタプローブで上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈、腹部大動脈、腸骨動脈をチェックします。なお大動脈碁部~上行大動脈近位部は、心エコーと同様に左側臥位での胸骨左縁アプローチにより観察しますが、上行大動脈中部~遠位部は右側臥位での右胸壁アプローチ、弓部~下行大動脈上部は仰臥位での胸骨上窩アプローチ)により観察します。下行大動脈中部~下部は、通常の心エコー時の断面(胸骨左緑や心尖部アプローチ)で下行大動脈の短軸断面が描出され、時計回りにプローブを回していくと、下行大動脈の長軸断面が描出されます。
胸部大動脈径の基準値は30-35mmで、45mm以上は瘤と定義されます。大動脈が全体にわたって拡張したものを大動脈拡張症、上行大動脈根部が拡張したものを大動脈弁輪拡張症といい、いずれも経胸壁エコーで観察可能です。また大動脈解離による真腔と偽腔の判別が可能なほか、大動脈解離の前駆病態である潰瘍様突出(ulcer-like projection)も観察できます。

腹部エコー

次に、コンベックスプローブを用いて腹腔動脈、上腸間膜動脈、腹部大動脈をチェックします。
わが国の60歳以上の高血圧患者における腹部大動脈瘤(AAA)の有病率は4.1%と報告されています。AAAのリスクファクターは高齢、家族歴、喫煙歴で、米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)のガイドラインでは動脈瘤家族歴を有する60歳以上または喫煙歴を有する66~75歳の男性は、触診とエコーによるAAAのスクリーニングを受けるべきであるとしています。エコーでは、腹部瘤の存在(部位、腎動脈や上腸間膜動脈との関連)、瘤型(解離、真性、仮性)、形状(紡錘状瘤、嚢状)、血栓の有無、性状の評価のほか、炎症性瘤との鑑別も可能です。なお、マントルサインとACサイン(anechoic crescent sign)は大動脈瘤で見られる代表的なエコー所見です。前者は、AAAの前方または前側方に見られる低エコー輝度領域の壁肥厚所見で、この所見を認めれば炎症性の大動脈瘤が疑われます。後者は、瘤壁と壁在血栓との間に形成される三日月状の無エコー領域で、大動脈解離との鑑別を要する所見です。
腹部エコーではAAAに加え、高安動脈炎、粥状硬化による狭窄病変や閉塞病変、可動性プラーク、解離部位なども評価します。心血管疾患を有し、原因不明の腹痛(食中または食直後が多い)、体重減少、便通異常を来す場合は慢性腸間膜動脈閉塞が疑われ、エコーはその診断に有用です。また、スクリーニングエコー検査で腹部内臓動脈瘤を発見することが多く、瘤径が20mmを超えれば手術や血管内治療の適応となります。腹部内臓動脈瘤では脾動脈瘤が最も多く、次いで肝動脈瘤、上腸間膜動脈瘤、腹腔動脈瘤の順です。脾動脈瘤は女性に多く、妊娠中は瘤が破裂するリスクが高いので注意を要します。

腎動脈エコー

続いて、腎動脈起始部に高度狭窄があるかどうかなどをチェックします。
二次性高血圧の原因の1つに腎血管性髙血圧があり、その頻度は65歳以上の高齢者で約7%といわれています。腎血管性高血圧の主な原因は、腎動脈の狭窄や閉塞により腎灌流圧が低下して、レニン・アンジオテンシン(RA)系が賦活化することです。腎動脈の狭窄や閉塞の原因は中高年者の粥状動脈硬化が最も多く、次いで若年者に好発する線維筋性異形成などが挙げられます。「高血圧治療ガイドライン2014Jでは腎血管性高血圧の診断の手がかりとして、30歳以下発症の高血圧または55歳以上の重症高血圧、増悪する高血圧、利尿薬を含む3剤以上の降圧薬を投与しても効果が弱い治療抵抗性の高血圧などを挙げています。
慢性腎臓病(CKD)のうち、腎動脈狭窄による腎機能低下を来す虚血性腎症は、治療抵抗性高血圧やRA系阻害薬による急激な糸球体濾過呈低下の原因にもなっておりCKD患者における頻度は65歳以上で6.8%、PCI施行例で20%、末梢動脈疾患例で35~52といわれています。粥状硬化性病変により腎動脈に狭窄が生じる動脈硬化性腎動脈狭窄症では、全身性の動脈硬化性病変であるため両側の腎動脈に病変が存在することが多く、また脳梗塞や虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症などを高頻度に合併します。
一方、腎臓内の細小動脈に硬化が生じ糸球体や腎実質が線維化して萎縮する腎硬化症は、高齢の高血圧患者でしばしば認められます。このように全身の動脈硬化が強く、高血圧やCKDを合併する患者、特に尿蛋白などがないCKD患者では腎動脈狭窄症や腎硬化症を調べるため、腎動脈エコーによるスクリーニングをぜひ行うべきです。
腎動脈エコーは、仰臥位での心窩部アプローチが基本ですが、描出できない場合は側臥位や腹臥位での側腹部アプローチや背面アプローチも有用です。また、通常はコンベックスプローブを使用しますが見えにくい場合は早急にセクタプローブに変更します。
腎動脈エコーでは、収縮期最高血流速度(peak systolic velocity : PSV)、腹部大動脈と腎動脈でのPSV比(renal aortic ratio : RAR)、拍動指数(pulpability index : PI)、抵抗指数(resistance index : RI)を測定するほか、腎臓内の血流評価や腎臓のサイズ、形態を評価します。これらの評価項目のうち、PSV180cm/秒超、RAR3.5超、腎実質内の血流評価で加速時間が延長している場合は腎動脈狭窄を疑います。また、RIが0.7以上であれば早期の腎硬化症が疑われ、進行した腎硬化症では腎臓が白く小さく描出されます。

頸動脈エコー

頸動脈の血管壁の厚さ(内中膜厚:IMT)やプラークの有無は冠動脈硬化と関連し、IMTが0.1mm肥厚するごとに冠動脈疾患のリスクが15%、脳動脈疾患のリスクは18%増加するといわれています。また、頸動脈プラークの性状と冠動脈プラークの性状には関連があり、エコーを用いて頸動脈を観察した上でスタチンの投与を考慮するなど、薬剤選択にも有用です。
頸動脈エコー時の体位は仰臥位を基本とし、顎を軽くあげ、正中位から観察する側の反対側へ顔を30°以内に傾け、最も観察しやすい位置でリニアプローブを用いて行います。なお体形によっては、肩甲骨背部に枕やタオルなどを挿入すると総頸動脈起始部の観察が容易になります。また、内頸動脈遠位部の観察には、側臥位にして頸部後方から観察することも有用です。
断層像の観察は、血管の短軸断面と長軸断面の2方向で行い、左右の総頸動脈、頸動脈洞、内頸動脈、椎骨動脈を観察しますが、IMTやプラークを評価する際には、総頸動脈、頸動脈洞および内頸動脈の観察が必須です。頸動脈は、血管の拍動に伴って径が周期的に変化するため、心拍の拡張後期(頸動脈では血管の収縮後期)に血管径を測定します。プラークの占有率(面積狭窄率)が50%以上と評価された場合には、ドプラ法にて狭窄部収縮期最大血流流述(PSV)を測定して、狭窄率を評価・推定します。
なお、甲状腺はエコーで観察できるため、当外来では頸動脈エコー施行時に甲状腺も同時に観察しています。また、PCIを行う可能性がある患者では、PCIを安全に施行するために両側鎖骨下動脈の狭窄もチェックしています。

全身の血管を診る本来の循環器内科医を目指して

循現器領域におけるエコー検査は、スクリーニングや診断に加え、予後予測や薬剤選択、治療効果判定などにも有用です。エコー機器は日々進歩しており、解像度が上昇し組織性状の評価も可能になりました。また、ベッドサイドで使用できるタブルエコーの普及が進んでいますが、今後さらに小型化して在宅医療でもエコー検査ができるようになるでしょう。
循環器内科医は、心臓だけでなく全身の血管を診ることが重要で、それができてこそ本来の循環器内科医といえるでしょう。全身の血管を診るにはエコーの手技に習熟する必要がありますが、従来の医学部教育には心エコー以外は組み込まれていませんでした。そこで私たちは、医学部教育に頸動脈エコーなどの循環器内科医に求められるエコー検査のトレーニングを組み込むとともに、10年ほど前から日常臨床の最前線で活躍する医師、臨床検査技師、診療放射線技師および看護師などの医療従事者を対象にKYUSHU心血管超音波セミナーを開催しています。
多くの先生方がエコー検査に習熟され、日常診療における重要なツールとして活用されることを願っています。

2022/10/1 循環器内科部長 小田代 敬太