がんと循環器 ~腫瘍循環器時代の到来~

循環器内科では、がん患者さんの心臓を守る取り組みを行っています!

がんと循環器疾患を合併する患者が増加しています

わが国ではがんが死因のトップですが、後期高齢者では循環器疾患による死亡者数の方が多く、高齢化によりがんと循環器疾患を合併する患者が増加しています。
九州中央病院はがん診療(特に消化器、肺、乳腺、泌尿器)に力を入れており、2020年度からは国より地域がん診療連携拠点病院の指定を受け、がんと循環器疾患の合併患者を多く診させていただいております。

がん患者は血栓ができやすい!?

がんと循環器疾患の関係といえば、1865年のアルマン・トルーソーによる胃がん患者の遊走性血栓性静脈炎に始まるがんと凝固異常の関連が有名です。がんが存在すれば血栓が出来やすいことがわかっています。がん関連血栓症(Cancer associated thrombosis:CAT)と呼ばれています。がん細胞の組織因子やムチンなどが関与しています。原因不明の深部静脈血栓症や肺塞栓の一部はがんが原因です。膵臓、消化管、肺、卵巣などの進行がんが多いと言われています。術前・術後に深部静脈血栓症が見つかり難渋することがありますが、直接経口抗凝固薬(DOAC)が有効であることが最近証明されましたので管理しやすくなりました。また、原因不明の多発性脳梗塞の一部はがんによる微小塞栓が関与しています。非細菌性血栓性心内膜炎が主な病態と考えられています。発症後生存期間が極めて短いのが特徴です。

抗がん剤の心臓への影響

抗癌剤の心血管毒性も最近注目されています。1970年代からアントラサイクリン系抗腫瘍薬による心毒性が報告されてきましたが、最近では分子標的薬による心血管毒性が注目されています。分子標的薬のうち血管新生阻害薬は血管内皮増殖因子を抑制するため、血栓(特に深部静脈血栓)を生じやすく、さらに高血圧や心不全の副作用も見逃せないです。最近では免疫チェックポイント阻害薬投与時に出現する劇症型心筋炎も報告されています。がん化学療法が目覚ましい進歩を遂げがんの予後が向上していますが、心血管毒性への適切な対応はがん患者の生命予後やQOLを左右する大きな要因となり、ますます注目されています。循環器専門的な対応が必要ながん患者は増加しており、循環器医もがん治療を理解して腫瘍医とともに心血管毒性を管理する必要に迫られています。

心臓のみで無く、全身の血管を診て、がんにも配慮できる循環器内科を目指して努力していく所存です。今後ともよろしくお願いいたします。

2022/10/1 循環器内科部長 小田代 敬太